私は天使なんかじゃない
Show Down
倒れた者に未来は紡げない。
未来へと歩んで行けるのは生き残った者だけだ。
彼が進むのは孤高の道。
Lonesome Road。
広大な空間を有する洞穴。
周囲には孵化していない蟻の卵が散乱している。
天井には爆発物でぽっかりと大きな穴が開き、太陽の光が洞穴内に降り注いでいる。
対峙する者。
トロイ。
ボマー。
「これはこれはお懐かしい顔だ。まさかディバイドで死なずに生きていたとはな」
「会いたかったぜ、ボマー」
「部下たちはどうした?」
「大したことなかったぜ? 非能力者たちに全滅しちまったようだ。能力者っていうのも大したことないな。バンシー、デス、ランサーはもうお前を助けに来ないぜ?」
「不甲斐ないというしかないな」
「お前をここで消したら全てが終わる。そしたら俺は歩き出せるってわけだ」
「それは素晴らしい」
「さあ始めようか」
腰を低く沈める。
距離は20メートル。
腰の刀の柄に手を軽く当てて抜刀の態勢。
それに対してボマーは悠然と成り行きを見ている。どちらも銃火器の類は持っていない。
トロイの武器は刀。
ボマーの武器は両の手にある鋼鉄製のガントレット。ただ、通常のガントレットとは違い、拳の所に幾つか穴が開いている。
「もう始めるのか? せっかちだな」
「次の人生をさっさと歩みたいんでね、障害は蹴散らしてしまいたいのさ」
「ああ、なるほど。邪魔者は目障りだよな」
「分かってらっしゃる」
お互いに顔は知っているし存在も知っている。
顔合わせは初めてではない。
ただ、戦うのはこれが初めて。どちらもその腕を噂では知っているが実戦となると初めてだった。
「トロイ」
「何だ」
「掛かって来いよ」
「そうさせてもらう」
フッ。
トロイの姿が消える。
瞬間、爆発音。
ボマーとの距離18メートルの地点で無数に爆発が起こる。
「げほっ!」
「ああ、言い忘れていた。そのあたりに地雷を埋めてある」
「らしいな」
ペッと唾を吐くトロイ。
立ち位置は変わらず。
つまり。
つまり最初に立っていた場所、ボマーとの距離20メートル。全く動いていないことになる。だが服は一部が焦げ、埃まみれで、トロイの顔も黒ずんでいる。
「随分と男前になったな」
「ほざけ」
「だが、さすがは伝説の運び屋、と言うべきなのかもな。無理攻めはやめてそこまで退いた。見事だ。大胆であり、慎重、運び屋なんてやりながらも長生きできたわけだ」
「それはそれはどうもありがとう。ボマー、あんたも用意周到だな、地雷とは」
「俺の元には誰も到達しない、そうは思っていた。しかし妙な予感もあったからな、地雷を仕掛けておいたまでさ」
「そうかい」
トロイは能力者ではない。
それはボマーにも分かっていたし、ボマーはトロイの動きの理屈も見抜いていた。
「お前インプラントを体に埋めているな?」
「デスも同じことを言ってた。分かる物なのか、能力者には?」
「何となくな」
「ふぅん。そういうものなのか」
油断なくトロイは身構える。
ボマーの思惑は分かっている。地雷でトロイの能力を殺す気なのだ。別にトロイは瞬間移動しているわけではない。地雷原は通る必要がある。インプラントの機能を使ったにしてもだ。
老獪で用意周到。
なるほどなとトロイは思った。
なかなか攻めづらい相手だ。さすがはストレンジャーの親玉と言ったところだろうか。
一筋縄ではいかない。
「ボマー」
「何だ」
「お前俺のことをどこまで知っている?」
「インプラントのことか? さあな。身体強化系のインプラントを埋め込んでいるとは思っているが、どんなのかは知らん」
「ふぅん」
インプラント。
戦前に作られた身体強化用の機械。それを体に埋め込むことにより、適応させることにより、身体を強化させる。ただ戦前にもそれほどの数は作られず高価なもので、今の時代にあるのはその
名残に過ぎない。希少であり現存する物が尽きたらこの世界から消える代物。
また、埋め込んだら誰でも使えるわけではない。
機能しない場合もある。
そればかりか拒絶反応を起こして死んでしまったりもする。
手術する医療者の腕も必要だ。
インプラント技術は西海岸に集中し、東海岸では例すらないが、本場の西海岸でもごく一握りの者にしか施術できない。
「トロイ、どんな物を埋め込んでいるんだ?」
「わざわざ教えると思うか?」
「駄目元さ」
「名称だけは教えてやるよ。Implant GRXってタイプだ」
「聞いたこともないな」
「戦前の試作品だからな。本当に世界に一つだけの代物だよ」
「ほう。ではお前を殺したらそいつを摘出するとしよう。ストレンジャー再建の費用として徴収しておいてやる」
「くだらないことに使うなよ。街一つ買える値段だ」
軽口の叩き合い。
戦闘はまだ序盤、展開は仕切り直し。
「……」
「……」
対峙する2人。
埋め込まれたImplant GRXをボマーは警戒している。
聞いたことすらないものだからだ。
つまり機能が分からない。
「……」
「……」
Implant GRX、その機能。
それは超加速。
要はミスティのように時間をスローにし、自身だけは普通に動けるという機能。周囲には高速で動いているように見える。一日の使用回数は決まっているし、ミスティを始めとする能力者
のように遺伝子レベルで進化して得た者ではないトロイは使用するたびに体力が消耗がしている。あくまで機械で強制的に人外の力を使っているからだ。
数あるインプラントとの中でも規格外の性能、それがImplant GRX。
フッ。
再び消える。
爆発音。
ボマーに隙はない、地雷原は隙間はない。それはトロイにも分かっている。Implant
GRX、加速装置を連続使用することにより地雷原を突破する。それがトロイの目的。
地雷を避けるなんてしない、超加速で無理に突っ切る。
「ふんっ!」
ボマーが右手で足元を殴る。
爆発。
周囲に石礫が無数に飛び散った。
「くっ!」
ドサ。
トロイが出現、ボマーとの距離7メートル。地雷原を突破したものの無数の石礫全てを回避できずに何発か受けてその場に倒れ込んだ。
超加速はあくまで足が命。
足が止まれば走ることも超加速もできない、当たり前の理屈。
急いで立ち上がり抜刀の姿勢。
ボマーはトロイに向かって全速力で向かってくる。
真っ向勝負。
あのガントレットは西海岸製の武器で爆殺フィストと呼ばれる代物。手甲の中に爆薬が仕込んであり3発分の爆発を起こすことが出来る。ボマーは両手にしているので計6発。残りは5発。
ストレンジャーのボスとして胡坐をかいているだけではない。
堅実な戦いでボマーはポイントを稼ぐだけの思慮がある。
「ボマーっ!」
「トロイっ!」
フッ。
「ふんっ!」
再び足元に爆殺フィストを叩き込む。
爆発。
石礫の洗礼。
ボマーはすぐさま次のモーションに移る、拳を前に叩き込む。何もない虚空に向かって。
刃を今まさに叩き込もうとしたトロイが出現、しかし刃は振るえない、繰り出した瞬間に爆発フィストが刃と交差。
爆殺フィストの特性は仕込まれた爆薬。
つまり?
つまり。
ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
刃が半ばで砕ける。
至近距離での爆発だ、当然ボマーもただではすまない。爆風で両者後ろに吹き飛ばされる。
ズザザザザザザザザ。
だが両者、只者ではない。
地面を滑りつつもひっくり返っていない。先に反撃に移ったのはトロイ。答申が砕けた刀をボマーに投げる、頭を横に動かして避けるものの完全にではなくボマーの右耳が削げる。
トロイは走り抜刀の構え。
抜くのは……。
「はあっ!」
「くだらんっ!」
抜くのは鞘。
一歩引いてボマーは横に流れた鞘を避ける……次の瞬間突きに転じたトロイの鞘に胸を殴打、体勢を崩す。
そして……。
「おらぁーっ!」
蹴り。
蹴り。
蹴り。
ボマーの足、腹、胸を連撃。そしてトドメの回し蹴りをボマーの首筋に叩き込んだ。堪らずに膝を付くボマー。
「ぶっ飛べぇーっ!」
まるでゴルフのように。
手にした鞘で這いつくばるボマーをショット、大きく弧を描きつつ宙を舞うボマー。
フッ。
トロイの姿は消え、そして……。
「ストーップっ!」
脱出するべく先頭を進むんでいたイッチが警告の声を上げた。
俺たちは止まる。
戦闘はカンタベリー・コモンズのハンター三兄弟にお任せモード。何せ俺たちトンネルスネークはVSストレンジャーで息も絶え絶えだし、カンタベリー・コモンズ名物の正義の味方たちも
消耗してて戦える状況ではない。ローチ・キングを倒したと思われるアンタゴナイザーは能力の使い過ぎで気絶中。メカニストに背負われている状態だ。
俺?
俺は自分の足で立ってはいるが血が足りない。
とてもじゃないが戦っていられる状況には程遠いコンディション。
なので時折襲い掛かってくる蟻たちとの戦闘は三兄弟とED-Eに任せっきり。イッチ、ニール、サンポスの三兄弟は個々の強さよりも連携の強みがある。息のぴったりの兄弟だ。
そしてED-E。
その火力はデタラメ。
パーティーの大半は戦闘不能状態だが特に問題はなさそうだ。
「どうしたんだよ」
「ブッチ、あれ」
「あれ」
指差す方向を見る。
薄暗い通路に誰か倒れている。
身動きしない。
死んでる?
「ニール、見てきてくれ」
「あいよ」
「サンポスは一行の後続を見張っててくれ。追撃を警戒」
「分かった」
息のぴったりの兄弟だ。
「俺も見に行くぜ」
巨漢のニールに付いて行く。
倒れている対象に近付くとそれが白衣の来た人物だと分かる。
男だ。
眼鏡を掛けた男だ。
胸に穴が三つ。
焼け焦げているからレーザー系で撃たれたのか。
誰だかは知らん。
息はまだあるがとてもじゃないが助からないだろう。ニールはサンポスを呼ぼうとする素振りを見せたが無駄だと悟ったのだろう、結局は呼ばなかった。
白衣の男は呟く。
意味のある言葉の羅列だとは思えないが。
「……世界を救う、生態系を昔に戻すんだ、そうだ、その為の犠牲はやむ負えない、街の一つや二つ……」
こいつか。
こいつがここの親玉の科学者か。
グレイディッチを潰した奴か。
……。
……だが、誰に撃たれた?
分からん。
問い詰めたいが男の瞳から生気が消えつつある。
そして。
そしてDr.レスコの最後の言葉。
「……グ、グリゴリの堕天使……」
グリゴリの堕天使?
何のことだ?
グレイディッチの狂科学者、Dr.レスコ、死亡。
爆発がトロイを吹き飛ばした。
「ぐぅっ!」
さすがにこれは予測していなかったのだろう、トロイは3バウンド。鞘が転がる。
ボマーは能力者。
Light Ster。
特性は自動発動。効力は地雷やトラップの無効化。それが能力。トロイはボマーが吹き飛ばされた先には何もないと踏んでいた、何も作動しなかったからだ。
だから。
だから一気に間を詰めてしまった。
そしてそれがボマーの狙いだった。攻撃され、吹き飛ばされつつもトロイを罠に引き摺りこんだ。
デスはボマー、ランサー、バンシーの3人がかりでも勝てない。
それが通説。
だがこうも考えられる。
つまり、勝てないものの負けもしない、あくまで勝てないと言われているだけで負けるという風聞はない。実際デスはランサーよりは強いがバンシーの装甲を斬る術はないし、ボマーの老獪な
戦略を崩せない。全てはボマーが作り出したイメージであり、油断させるための戦略の一つ。むろんデスはそれを信じ切っていたが。
「ここまでだな、運び屋」
ボマーはゆっくりと立ち上がった。
足元に転がっていた拳の台の岩を手に取り、宙に放る。
そして……。
「はあっ!」
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!
岩に爆殺フィストを叩き込む。
爆発で砕けたそれは散弾のようにトロイに向かって放たれる。
「ちっ!」
さすがに全ては避けきれない。
トロイの右手に石礫の1つが直撃、トロイは顔を苦悶に変えた。
「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
「利き腕は潰した」
「そうかい」
素早く落ちている鞘を左手で掴んで構える。
構える姿は様にはなっているが利き腕ほどの器用さはない、誰の目にもそう見える。
「ごふっ!」
「随分と辛そうだな、トロイ」
吐血。
「加速し過ぎたからな、内臓が少しやられたらしい」
「無理はするな、休め」
「てめぇを倒したらな」
「何を求めてここに来た? ここにお前の目的はないはずだぞ」
「成り行きってやつだ。そしたらお前らが絡んできた。言え、誰の依頼でディバイドを潰した。NCRか? リージョンか?」
「ディバイドを潰した? ああ、まあ、そうだな、だが少し違う」
「違う? 何がだ?」
「ディバイドも潰すようには言われたが、最優先目標はトロイ、お前だよ。ディバイドも邪魔ではあったようだがな、トロイ、お前が一番の邪魔なんだよ。ディバイドはお前のついでだ」
「興味深い話だ。全部聞かせてもらうぜ」
「決着を付けようじゃあないかっ!」
フッ。
トロイは消える。
超加速。
体力的にはこれが最後の加速。連続しての加速、トロイはこれで勝負を決めるつもりだ。
ボマーは両の拳を大地に叩きつける。
大爆発。
そして石礫の弾幕。
周囲を大量の石礫が薙ぎ払う。キッとボマーは上を見た、トロイは上にいた。
「チェックメイトだな、トロイっ! 宙では避けようがないぞっ!」
「お前もな。そんなに目を見開いたら視界が悪くなるぞ」
何かを吐き出す。
それは血。
トロイは吐血をボマーに浴びせる。顔に掛かり一瞬視界が効かなくなる。そのわずか一瞬で充分だった。トロイは鞘を左手で振り下ろす。
ガッ。
ボマーはそれを両手をクロスしてガード。
必殺の一撃が防がれる。
笑いかけるボマーだがトロイはその瞬間には鞘から手を離し、着地、そしてそのまま手刀をボマーの喉元に叩き込んだ。
右手で。
「がはぁっ!」
「意表を突いた攻撃ってやつです」
血反吐を吐いてその場にひっくり返り、喉を抑える。
ただの手刀ではない。
機械の腕での一撃。
トロイの右腕は義手、人口の皮膚を被せてある義手。キャピタルでは珍しい技術だがモハビではそれほど珍しいものではない。倒れているボマーに容赦などなくそのまま右手で足を突く。
骨折の音、悲鳴、それが重なった。
「ここまでだな、ボマー」
「……くふー、くふー……義手、とはな……」
「あの爆発で五体満足でいられるわけねぇだろ。人間の部分が大半だが、機械化している部分も多い。それだけの話だ。つまり、だ。ディバイドの一件がなきゃこの勝負はお前が勝ってたよ」
「なるほどな」
ゆっくりと身を起こすボマー。
トロイは3歩ほど引いた。接近戦メインのボマーだから足が潰れている以上どうしようもないだろうが油断はできない。
引いたのはその為だ。
「何が聞きたい?」
「ほう? さすがは親玉だな、マチェットとは格が違う」
「……さすがにあいつと比べられるのは心外だな」
「まあ、そうだな。さてお話タイムと行こうか。ディバイドは誰の命令でやってた?」
「逆に聞こう。誰だと思う?」
「NCR、リージョン、どちらも動機はあるな」
「NCRはディバイドを補給路に使うことで戦争を有利にしようとしていた、事実そうなった。だが一介の運び屋に指図されていることは不愉快だったはずだ。お前の言うことを聞かなければ補給路は、
ディバイドの回廊は閉ざされてしまう。リージョンもお前が邪魔だった、お前が肩入れしている限り手が出せない。お前と懇意のモハビの諸勢力を敵に回すことになるからだ」
「だからドカン、か?」
「動機はあった、どちらもな。NCRはお前と補給路を潰すべく引き寄せられてきたリージョンを潰したがっていたし、リージョンも同じようなことを考えていた。リージョン側のディバイド攻略の司令官は
誰か知っているか? ジョシュア・グラハムだ。リージョンのカリスマ、シーザーに次ぐ地位にいる最高司令官だ」
「NCRが吹き飛ばしたとしたらそれが動機か? ではリージョンが潰すとしたら、それも奴が理由か」
ジョシュア・グラハム。
リージョンのモハビ方面攻略の最高司令官。
実質的な能力は総帥であるシーザーを超える。軍団からの支持もある。
ボマーは続ける。
「実際奴はNCRを追い詰めていた、NCRが大軍を擁しながらも勝てない理由は補給路が確立できないからだ。銃火器の補給が前線に間に合わないからだ。ディバイドはそれを解決してしまう、そし
たらリージョンは負ける。躍起になってジョシュアはディバイドを潰したがっていた。だが駄目だった、何故だと思う?」
「何故だ?」
「シーザーは脳に病を抱えている。その所為か疑心暗鬼でな、裏切り者がいないか忠誠心があるか仕切に前線から司令官たちを招集しては尋問し、哀れな犠牲者の山を築いてる。ジョシュアがここ
一番というところでNCRと勝敗未決になるのはその為だ。シーザーがその度に呼び戻しているからだ。まあ、そのお蔭でディバイド爆発では不在で生き延びたわけだが」
「何が言いたい」
「つまりだ、戦争終結の兆しは両軍にあった。シーザーさえ大人しくさせておけばジョシュアが、リージョンが勝つし、補給路を確立させればNCRが勝つ」
「歴史の講釈はうんざりだ」
「Mr.ハウスだ」
「……何?」
「奴が依頼人だ」
「ハウスが、だと?」
「ああ」
Mr.ハウス。
モハビ・ウェイストランドにある巨大都市ニューベガスの謎の支配者。
セキュリトロンと呼ばれる戦闘ロボットの軍団、三大ファミリーと呼ばれるカジノを差配する組織を支配する男。
「だが奴は平和論者のはずだ」
NCR、リージョンの調停に動いている。
結果としてベガスの街は中立地点となった。
「平和論者?」
ボマーは吹き出す。
「NCRのアーロン・キンバル大統領は腐った政治家、リージョンのシーザーは妄想野郎、そしてMr.ハウス、奴は業突く張りの商売人に過ぎんよ」
「……ああ、そういうことか」
トロイは納得した。
Mr.ハウスは邪魔だったのだ、ディバイドが。
戦争終結の要ともなるディバイドの補給路が邪魔だったのだ。ディバイドこそが戦争終結の決定的な一打となる、どちらが勝っても戦局が大きく動く地点。
だから潰した。
何故?
それは……。
「戦争の長期化で稼ぐ為」
「ビンゴだ」
「ちっ」
「悪いとは思うがな、俺もビジネスというやつだ。お前に恨みはないよ」
「核はどこから調達した」
「知らん。俺たちはMr.ハウスの指示で誘導ビーコンを遠隔で作動させたに過ぎない。どこから飛んできたかは知らん」
「そうか」
「トロイ、俺と組まないか?」
「組む?」
「Mr.ハウスが動き出しつつある。かなり大きな動きらしい。奴に不満を持つ昔馴染みからの情報なんだが……プラチナチップというやつを狙っているらしい」
「プラチナチップ?」
「それが何かはまだ分からんが、昔馴染みの情報ではベガスの街を支配できるほどの意味を持つとか」
「ふん」
ぬちゃ。
その時、妙な音がした。
トロイは顔を音のした方に向ける。洞穴の中に積み重なった蟻の卵の方からだった。
孵化が始まったらしい。
「ボマー」
「何だ」
「ああいう生き物は生まれた瞬間からサバイバルらしい。共食いとかするんだろうか? 何にせよ貴重な栄養源は必要不可欠だよな?」
「な、何っ!」
「お前は俺に恨みはないようだが俺にはある、当然だろう? じゃあな」
「待てトロイっ! 運び屋、とか綺麗事を言ってもお前だって俺たちと同じ穴のムジナだろうっ! 子供の玩具から大量破壊兵器まで、それを扱うのが運び屋だっ! 同じ悪党だろう、助け合おうっ!」
「お前何か勘違いしてねぇか? 悪とワルは違うんだぜ?」
「トロイぃぃぃぃぃいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
「俺はディバイドで地獄を見た。次はお前の番だ」
VSボマー戦。
トロイの勝利、ボマーは戦闘不能。
俺たちトンネルスネーク&混成軍団は一度グレイディッチから撤退。
何故かビリーがいたりした。
まあいい。
撤退先はウィルヘルム埠頭のスパークル婆ちゃんの活動拠点。そこで婆ちゃんの部下のハンターたちを借り、さらにメガトンから市長率いるレギュレーターと警備兵たちも合流。
グレイディッチに攻撃する。
ただ、蟻の大半は壮絶な同士討ちでもしたのか、死骸がごろごろしていた。
残りを一掃。
その間にED-Eが消息不明となり、トロイも結局帰ってこなかった。
だが俺はどこかで生きていると確信している。
そうとも。
確信してるさ。
三日掛かったがグレイディッチは完全に掃除された。
逃げた蟻の女王とやらはどこかに飛び去ったらしい。俺は見てないが、そういう話だ。
全てが解決だ。
全てが……。
バタン。
薄暗い部屋に、部屋の主が帰ってくる。扉を閉め、白衣の人物は持っていたファイルを机に置いた。
廊下に繋がる扉と別にもう一つ扉がある。
それは寝室への扉。
ガチャリ。
突然廊下側の扉に鍵が掛けられた。
白衣の人物は慌てて振り返る。
そこにはカウボーイハット、コート、そして44マグナムを腰にぶら下げた人物が壁に寄りかかりながら立っていた。
女性。
「待ってた」
そう呟いた女性の名はソノラ。
レギュレーターを統括する女性。
「どうしてここに、という顔ね」
「……」
「叫んでも無駄。警備のサイクルは知っているしここは防音。防音に関しては言うまでもないわね、あなたの部屋なんだから」
「……」
「全ての犯人はDr.アンナ・ホルト。主に水絡み、そしてそれに関連する悪党どもを裏で操っていた、そうよね?」
「……だったら」
「そう、だったら私の部屋に来ることはない、でしょう? だったらね」
「……」
「あなたの目的は別にあった、Dr.アンナ・ホルトにしてもDr.レスコにしても、いいえ、数々の有力人物の名が一気に挙がったのもあなたの思惑、故意、そして目的」
「……」
「さあディベートの時間を始めましょう、Dr.マジソン・リー」